私にとって恋とは忍ぶもの

画像はイメージです
バレンタインの思い出。
朝早く学校に行って、好きな人の靴箱にチョコを入れておいた。
教室で、私の後ろの席で彼が、嬉しそうに友達と話してるのが聞こえた。

「俺初めてだよ嬉しいよ~」

「よかったなー!でも誰から?」

「それがわからんのよー」


そんな会話が聞こえた。
彼と友達が小さな声で、推理を始めたのが、私にも少し聞こえてきた。
彼が期待してる活発で可愛い女子とは、私は根本的にタイプが違う。

あの子じゃないか、どの子じゃないかと、彼が話してる名前の中に、私の名前はなかった。


でもそれで良かった。

私にとって恋とは忍ぶものだった。
初めて女からチョコをもらった!と彼が喜んでくれてるからそれで良かった。
私からだと知ったら、彼はきっと嬉しくないと思う。

翌年も同じように、彼の靴箱にチョコを入れようと思っていた。
でもその時は彼には彼女がいて、完全な横恋慕だった。

迷って行動を起こせずにいる内に、結局チョコをカバンに入れたまま、放課後までを過ごした。
でも放課後うっかりして、そのチョコを持ってるとこを見られてしまった。
彼に!
私は慌てて言ってしまった。

「君に渡して欲しい、って預かったんだよ!」

「ふうん、誰から?」

モテるようになって彼女もいる彼は、喜ぶ顔は見せなかった。
さみしくなった。
どうあれ、私からだと言うわけにはいかない。

「それは・・・言っちゃダメなんだって」

「そっか・・・去年も似たようなことあったなあ。正直気持ち悪いから要らないよ。その人に返しといて」

実らぬ恋だと知っていても、彼が喜んでくれなかったこと、チョコを受け取ってくれなかったことは、私を失望させた。
失意のまま家に帰り、自分でチョコを食べ始めた。
そこに弟が帰って来て、驚くように言った。

「それどうしたの?」

「好きな人に、受け取ってもらえなかったよお・・・」

泣き始めた私を見て、弟も自分のカバンからチョコを取り出すと、寂しそうに言った。

「俺も。兄ちゃんもそっか。俺たち似たもの兄弟だね」

そのあと一切言葉はなかった。
静かに静かに、2人で慰め合った。

お互いの唾液が混ざったチョコはほろ苦い味がした。


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