体、すごく冷たいね・・・

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それまで漏れと彼女は友達以上恋人未満という関係だった。
その彼女と漏れは、以前から仲が良かったが、ある事がきっかけで急速に近づいた。
それは今から七ヶ月程前、ほぼ同時期に起こった、それぞれの失恋だった。

漏れは七ヶ月程前、三角関係がこじれまくった上に、親友と恋人を失い、人間不信になり、引きこもりに近い状態に陥った。
しかし、日常から目を背けるわけにはいかず、苦痛の日々を淡々とこなしていた。


そんな頃に、ふとしたきっかけで彼女の事情を知った。
彼女の方は好きだった人に、二股を掛けられたうえ、捨てられていた。
漏れ達は元々仲は良かったが、その事を知ってから急速に近づいた。
愚痴を言い合い、なぐさめあったり、お互いの相談相手になった。

傷の舐め合いなのは二人とも分かっていた。
しかしそうせずにはいられなかった。

お互い恋に疲れていた。
恋愛感情を持つ事は無かった。
漏れ達は、今おかれてる状況が似ているということもあったのだろうが、性別も育った環境も全く違うのに、まるで昔からの親友のように話が合った。

そしてお互い、親友のように思えるようになっていた。
それは、半年以上続いていた。
しかし、男女の友情は、やはり存在しなかった。
─彼女は誤解されやすい性格だった。
竹を割った性格というより、竹割りすぎな性格という感じだ。

それは、女性にはハラハラするほど危なげに見え、男にはいつでもヤレそうな女、に見えた。
実際、漏れも最初は彼女の事をそう思っていた。
しかし、彼女の事をよく知るとそうではない事が分かった。
彼女は、ただ自分のやりたい事に純粋で奔放なのだ。
彼女はその性格の所為で、男を信用できなくなりかけていた。

初めてその性格を理解してくれる異性の友人に出会えて本当に嬉しそうだった。

漏れ達は深夜二人でドライブをしたり、朝まで車の中で語ったりしてた。
話題は尽きなかった。
今思えばデートみたいなものだが、二人ともそうは思ってなかった。
ある時二人で夜景を見に行った。

回りにも何組かカップルがいた。
そしてその雰囲気に呑まれた。
漏れ達は抱き合って二人どちらともなくキスをした。
キスをした後で二人とも激しく動揺した。

男と女になってしまえばいつか終わってしまう・・・そんな気がしていたからだ。
二人とも今の関係が壊れる事を恐れていた。

それから数日、毎日のように会っていた二人は会うのをやめた。
久しぶりに会っても気まずく、お互い意識するようになっていた。
彼女もどうしていいのか分からなくなっていたようだった。

漏れ達のそれは、まるで厨房の初恋のようなもどかしさを感じさせた。

漏れは彼女の事を好きになっている自分に気づいていしまった。
彼女もそれに気付いていたと思う。
しかし、それ以上踏み出すことはしなかった。
それからしばらくして、彼女の状況が変化した。
二股の彼から電話があったのだ。

ヨリを戻そうと言われたらしい。
彼女は二股の彼の事をまだ好きで、忘れられなかった。
しかし・・・彼女は揺れていた。
彼女は漏れのことも好きになりかけていたからである。
彼女は悩んでいた。

彼女は自分でもどうしていいのか分からないのだ。
ただ、漏れのことも好きになっている、ということだけは言葉に出して言わなかった。

でもそれは言葉に出さなくても雰囲気で漏れは分かっていた。
お互いその言葉だけは口にしなかった。

それは口に出したら、二人の今の関係がケテーイ的に壊れるタブーの言葉になっていた。

友達以上恋人未満というのはすごく複雑な関係だった。
漏れ達は進む事も戻る事も出来なくなっていた。
混乱したのか、彼女は漏れに友達として二股の彼の事で相談してきた。
もちろん漏れは純粋に友達としては答えることが出来なかった。
彼女もこんなこと漏れに相談することではないのは分かっているけれど、なんだか聞いてもらわずにはいられない、そんな感じで話していた。

そのことを漏れに相談し始めた頃から、彼女は自分自身、少しずつ壊れていたような気がする。
漏れは彼女の事が好きだったけど、だから「つきあおう」とは、簡単には言えなかった。
二股の彼は最低な男だが、彼女が彼の事をどんなに好きなのかを分かっていたからだ。
彼女の気持ちを尊重したかった。
彼女には幸せになって欲しいから・・・漏れのエゴで縛る事は出来ない。
だが、そんな思いとは裏腹に漏れの気持ちはどんどん脹らみ、抑え切れなくなってしまった。

それは、所詮奇麗事に過ぎなくなってきていた。

漏れはだんだん嫉妬で醜くなっている自分に気付き、そんな自分がとてつもなく嫌なモノに見えた。
数日後、また二人で会うことになった。
その時から何か予感めいたものがあった。
ただ、彼女も漏れも、たとえ気まずくてもこうして会えることが嬉しくも思っていた。

しかし、この日は最初から二人とも雰囲気が違っていた。
彼女も気付いていた。
話の流れが危険だった。
彼女は必死に話をそっちに持っていかないようにしていた。
だが一度進みだした流れは変える事が出来なかった。

この日漏れは気持ちを告白した。
衝動が抑えられなかった。
ただ、伝えずにはいられなかったのだ。

彼女は黙って聞いた。
聞いたあと、目を閉じて涙を浮かべた。

「何で・・・なんで言っちゃうの?」

彼女はしばらく泣いていた。
ひとしきり泣いた後。

「やっぱり・・・私ってズルイかなぁ・・・」

ため息混じりに、そう一人ごちた。
彼女はカバンを開け何かを取り出す。
そして躊躇いながら、漏れに包みを渡す。
それはチョコレートだった。
当時、時期的にバレンタインが近かったのである。
なんとなく気にはなっていたが、殆どいつも家族からしか貰えないので、自分には関係ないと割り切っていた。
彼女は「勘違いしないでね。本命じゃないから・・・」と言った。
それは分かっていた。
しかし・・・彼女はこう続けた。

「でも・・・、義理でもない・・・」

「今日会おうと言われたときからそんな気がしてた。だから本当は・・・会わない方がいいんじゃないか・・・と思っていた」

彼女は俯きながら言った。


「でも・・・貴方から今日会おうと言われなければ、やっぱり私のほうから会いに行ってたと思う。私も、しっかりこんなもの用意してるし・・・」と彼女は涙を光らせながら、自嘲するように言った。

「貴方のことは私も好き・・・。こんなに判り合えた人初めてだったし・・・。貴方のこと大切にしたい。
でも私には(二股の)彼の方がもっと好きなんだ・・・。だから・・・貴方の気持ちに応えることは・・・出来ない」

彼女は一言ずつ確かめるように話す。
話しながら自分の気持ちに整理をつけていた。
漏れは彼女がこう答えるだろうと、なんとなく予感があった。
でも予感していたとはいえ、やはりショックだったでも、こうしなければ・・・漏れも彼女も進む事が出来なくなっていた。

彼女は漏れと話しながら決心を固めたようだった。
二股の彼とヨリを戻す事に決めたのだ。
漏れは車で彼女を下宿先へと送った。

その間二人とも無言だった。
彼女の下宿の門の所までは車が入れないので車を降り、門の前まで送る。
深夜なので誰もいない。
その道を二人並んで歩く。
彼女は下宿先の門の下へ着いても、俯いたままだった。

二人まだ前を見たまま並んで立っていた。

漏れは、深く息を吸って、はいた。
気を緩めると涙が出そうだった。
しばらくして横にいる彼女の肩が震える。
泣いているようだった。
彼女は急に抱きついてきた。
漏れは一瞬戸惑うが、彼女の身体をギュッと抱いた。
抱き合ってお互いの顔の見えない状態のまま、彼女は漏れの耳元で言った。

「もう、こうやって会えなくなるんだよね・・・。友達としても、もう会えないね・・・」

言ってる事は良く分からなかったが、言いたい事は良く伝わってきた。

漏れは彼女をギュッと抱き締めた後、引き離し、彼女の目を見た。
彼女の目は涙で潤んでいた。
彼女は背伸びをし、漏れにキスをした。
漏れもコレが最後のキスだと思い、それに応えた。
長いキスだった。
何も知らない人がこの姿を見たら、二人は恋人と信じて疑わないだろうと思えるほどのキスだった。

でも、このキスが終わる時、二人は離ればなれになるのだ。
二人ともその時が来るのを拒むように、ひたすらキスをしていた。

しかしそれは、唐突に終わった。
誰もいないはずの深夜の通りに突然、足音が聞こえた。
それに気付き、慌てて二人はなれ、そちらの方を見る。
暗くてよく見えない。

やがて、街灯に照らされて一人の人物が姿をあらわす。
それは彼女と同じ下宿先に住んでいた、漏れ達の共通の知人だった。
彼は漏れ達がしていた事に気付いてはいないようだった。
彼とは軽く挨拶を交わし建物に入っていったが、なんとなくそれで水をさされた感じになってしまい、漏れ達は別れた。

二人の最後があんな終わり方というのは少し悔いが残った。
でも、それはある意味仕方のないことなんだ、と自分に言い聞かせた。
もう一度ちゃんとやり直したいと思っても、とてもそんなこと言える立場じゃない。
結果的に漏れは振られたのだ。
家に帰り、あまり眠れないまま朝を迎える。
何もする気が起きなかった。
その日が休日だったことに思わず感謝した。

なんとか昼頃まで、うつらうつら眠った。
昼過ぎに目が覚めた。
何気にケータイを見る。
彼女からメールがきていた。
それに気付いた時、胸が締め付けられる感じになった。

「こんなこと言うのは自分でもおかしいって分かってるし、こんなこと言える筋合いでもないのも分かってる。
ただ、私のわがままに過ぎません。
そう・・・私は貴方も知ってる通り、わがままなんです。
私は昨日のあのキスがで最後のつもりでした。
でも、やっぱり納得がいかないのです。

あのままじゃ悔いが残ってしまう・・・と思うのは私だけなのかな?
昨日のキスがで最後っていうの気持ちも確かだし、それ以上何も変わらないのも確か。
ただ、貴方との最後をあんな中途半端なまま終わらせたくなかった。
でも・・・もしも、やり直しがきくのなら・・・それは今日だけだと思います。
もう一度キスしたところで何が違うんだ?って感じだろうけどね。
要するに私の自己満足だね。
キスしても何も変わらない。
だけど・・・今度は部屋で待ってます。

今日中ならいつでも突然で構いません。

もう会いたくない。
会わない方がいい。
昨日のアレで満足だ。
それ以外の理由で来れても来れなくても連絡はいらない。
それはそれでいいと思う。
それに、どっちにしても貴方の答えに私は満足することにするから、選択肢は貴方に委ねます。
昨日のアレで最後だと思ったら、なんだかちょっと・・・って思ったから・・・。
まぁメール送っただけでもすっきりしました」

メールを見て漏れは混乱した。
少しずつ自分が壊れていくような気がした。

漏れは、彼女も混乱し、少しずつ壊れているような気がした。
漏れはどうしたら良いか分からなくなった。
彼女は今、自分が何を言っているのか分かっているのだろうか?

漏れは彼女に・・・会いたい。
でも彼女のもとへ行ってしまえば、たぶん漏れは衝動を抑えられなくなる。

それに・・・仮にもし今夜何があったとしても、たぶん二人の関係はこれ以上進展することはないだろう・・・。
余計つらくなるだけなような気がした。
漏れは、このまま何も言わずに会わないで終わらすのが一番いいような気がした。
でも・・・彼女が一体どんな気持ちでこのメールを送ってきたかを考えると、このままで終わらしてしまっていいのだろうか?とも思った。
ただ漏れが逃げているような気もした。

彼女は・・・どういうつもりでいるんだろう・・・。

漏れは夕食を家族と食べたくなかったので、一人でファーストフードを食べて夜の街をドライブした。
夜の街を頭をカラッポにして疾走する。
凍りそうなほど寒いのに窓を全開にして飛ばした。
でも、気付いたらやっぱり彼女の家の方に車を走らせていた。

漏れは、彼女の家の近くへ車を停めて、車を降りた。
煙草を一本吸いながら見上げ、彼女の部屋を探した。
彼女の部屋の明かりは点いていた。
彼女は・・・今あそこで何を思っているのだろう?
そこに立ちつくしたまま、行くべきか行かないべきか、まだ迷っていた。
・・・覚悟を決めよう。
漏れは深呼吸して歩き出した。

漏れは彼女の部屋の前で立ち止まり、もう一度深呼吸をして呼び鈴を押した。
彼女の反応が返ってくるまでの一瞬の間に漏れは、ふと思った。

彼女がドアを開けても部屋に入らずに、ただ『アレで終わりにした方がいい』と言って帰る方がいいのかもしれない・・・と。

しかし、そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。
彼女は呼び鈴を押したのが漏れだと認めると、ドアをものすごい勢いで開けた。
そして裸足のまま通路まで飛び出てきて漏れに飛びつくように抱きつきキスをした。
彼女からは、いい匂いがした。
彼女は香水をつけていたのだ。
彼女は普段から香水をつけていたけれど、この時の彼女の香水は漏れの前では、つけたことのないものだった。
漏れたちは、抱き合ったまま彼女の部屋の前から彼女の部屋の玄関に入った。
漏れは今までに経験した事がないくらい動揺していた。
まだお互いに一言も喋ってなかった。
玄関に入って、どちらともなく離れる。

「・・・体、すごく冷たいね・・・」

彼女が言った。
さっき、雪が降っていた。

と漏れは答えた。
彼女は漏れの前髪に付いていた雪を見て「ホントだ」と言って払ってくれた。

漏れは彼女に何か言った方がいいような気がした。
部屋の前で一瞬考えた事を実行した方がいいような気もした。

だけど・・・結局漏れはそのことについて何も言うことは出来なかった。

漏れは結局、彼女の部屋に上がった。
彼女の部屋はさっぱりと片付いていて、モノが少ないシンプルな部屋だった。
ただワンルームの部屋のベッドは嫌でも目に付いた。
漏れたちはとりあえずコタツに腰を下ろした。
だけど、二人とも黙りこくっていた。

「やっぱり、不自然だよね。なに私たち落ち着いてるんだろ・・・」と彼女はちょっと苦笑しながら言った。

漏れもちょっと苦笑していたが、彼女と目が合って笑いが引っ込んだ。
最初、漏れはその場で彼女に迫ろうとしたが、彼女がちょっと拒んだ。

「・・・やっぱり・・・ベッド行こっか」

彼女の声は震えていた。
最後の方は消えそうな声だった。
まるで怯えているようだった。
漏れも、不安を覚えずにはいられなかった。
漏れと彼女がしている事は間違っているのだろうか?

でも、漏れはそう思いながらも、踏み留まることは出来なかった。
部屋の明かりを消して二人服を着たままベッドに入った。
いつの間にか雪も止んだようでカーテンの隙間から満月の光が差し込んでいた。
夜中とは思えないほど明るい光だった。

漏れは彼女とベッドの中で抱き合い、キスをした。
キスだけでこんなにも、愛おしい気持ちになったのは初めてだった。

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