妻子ある人を好きになっちゃって

画像はイメージです

その女性を見た瞬間、いい年齢して(35歳妻子アリ)ときめいた事を告白しよう。
4月に新任で入って来た、息子の保育園の保母さん。
色白で背が低く黒髪、スレンダーでちょいロリ系。
私のストライクゾーン、ど真中だった。
だがその一年は、私も保育園を訪れる事がなく、言葉を交わす事もないまま過ぎ去った。

翌年、その先生が息子の副担任となり、私のトキメキは再燃した。
それまでまったく保育園に行かなかったのに、時々顔を出すようになった。
それでもテレ屋の私・・・。
頭を下げる程度で、何も喋れない。
ただ時々、目で追うだけだった。


「◯◯先生って、可愛いよね」

突然息子が、私にそう言った。



「そうだね」

私はそう返した。
それだけで会話は終わり、何も起こらないはずだったのに・・・。

「せんせ~い、お父さんがね~せんせいの事、可愛いってよ~」

息子を迎えに行った時、事もあろうか息子がそう大声で言った。

「ばかっ!何を言うんだ!」

慌てて止めたが、それが益々真実味を増す結果となった。

帰宅し、まだ3歳の息子に言い聞かす。

「そういう事はね、大きな声で言ったらいかんよ」

「なんで?」

「先生も、どう相手していいか分からないでしょ」

そんな事言ったって、分かるわけがないのだが・・・。

翌日は仕事で遅くなり、帰宅すると妻が開口一番。

「あんた、◯◯先生の事、好きらしいね」とニヤニヤ。

「はぁ?」

「保育園でさ、子供が言って回ってたよ」

「なんて?」

「『お父さんの好きな、◯◯せんせ~い』って」

「はぁ・・・」

その翌日から、◯◯先生と顔を合わすのが恥ずかしくなった。

息子の発言は、以後、益々エスカレートした。

「せんせ~い、お父さんが好きらしいよ~」

「せんせ~い、お母さんがいなくなったら、お父さん、先生と結婚したいってさ~」

そんな事、俺は一言も言ってないって!
しかし、私の代わり?に大声で告白するもんだから、それは保育園中に知れ渡る事になった。

明けて翌年。

◯◯先生は、息子の受け持ちから離れた。
しかし我家はクラス役員となり、益々保育園に行く事が増えたし、先生方と話す機会も増えた。

まずは7月の夏祭り。
先生方と買出し&設営&販売を行う。
飲み物の販売を担当したのが、私と◯◯先生。
買出しや設営まではジャージ姿だったのに、販売時には浴衣に着替えておられた。
その姿に萌え~っ!

そして10月の運動会。
クラス対抗に出場した私。
その競技で、司会進行をしたのが◯◯先生。

「◯◯ちゃんのお父さん、頑張ってくださ~い」

なんて言われ、張り切った事は言うまでもない。
加えて先生方の競技で、「思い出」をテーマに作った出し物。
◯◯先生が演じたのは、女子高生。
そのセーラー服姿に、改めて萌え~っ!

浴衣姿にしてもセーラー服にしても、写真に収めた事は言うまでもない。
運動会の翌日、「昨日はお疲れ様でした~」思いがけず◯◯先生から話し掛けられ、すっかり鼻の下を伸ばしてしまった。

「先生こそ、セーラー服可愛かったですよ。思わず写真、撮っちゃいましたから」

「え~っ・・・恥ずかしいですぅ」

書いてて、何でもない会話だなと、自分でも思う。
だけど私にしてみたら、もの凄い進歩だったりするわけで・・・。

年が明けて2月。
子供達の学芸会が行われる。
会場設営に赴いた私。
無事に学芸会が終わり、後片付けも手伝う。
それが済んで、園長の計らいにより園内にて、軽い打ち上げが行われた。
息子によって、公にされてる私の恋心を汲んでか、横に◯◯先生が・・・。
緊張して、まるで酔えなかったよ。

「◯◯ちゃんのお父さん、全然酔わないんですね~」

少し酔い気味の◯◯先生。

「いや・・・まぁ・・・ある程度は飲めますから」

「いいですね~あたし、あまり飲めなくって・・・」

「いやいやいや・・・酔える方が羨ましいですよ」

なんて会話も、周囲の視線を気にして行う。

「◯◯ちゃんのお父さん、確かITでしたよね?」

違う先生から聞かれ、「あ、はい・・・」と答える。

「じゃ今度、合コンしましょー♪若い人、いっぱい連れて来て下さいよ」

「いいですよ、しましょうか」

なんて話した所で、園長からストップがかかって、この話題は終了した。
はずだったんだが・・・。


通勤中、同じく保育園に向かう◯◯先生と、これまで何度かすれ違った事がある。
お互い頭を下げる程度だったが、あの打ち上げを境に、2、3言交わすようになった。
そのうち、お互いに手を振り合ったり、足を止めて5分程話したり。
そして◯◯先生の方から、「合コンの話はどうなりました?」と聞かれたから驚いた。

「えっ?あれ、本気だったんですね?」

「ナカナカ企画を言って来ないと、他の先生達、やきもきしてますよ」

「分かりました。それなら企画します。連絡先は、◯◯先生でいいですか?」

「あっ、いいですよ。では・・・」

メアド、ゲッチュ!

先生達は6人。
会社のイケメン独身も6人、なんとか集めた。

「ロクな人いなかったよ~」と、言われたくなかったから。

会もそこそこ盛り上がり、2次会に行こうとなったが、「後は若い者同士で」みたいな・・・。
妻帯者が、いつまでもいても仕方なかろうと思い、店だけ確保して帰る事にした。

「あの~・・・帰るんですか?」

酔った◯◯先生は名残惜しいが、帰る事にする。

「後は若い人同士で、ゆっくり楽しんで下さい」

そう言い残し、一人駅に向った。
そのホームで・・・。
携帯が震え、メールの着信を知らせた。
見ると◯◯先生から。

今、どこですか?
駅で電車を待ってます。
私も帰ります。
そうですか・・・つまらなかったですか?
はい。
申し訳ありませんでした。

◯◯ちゃんのお父さんが、帰るからです!
えっ?すみません。
電車があるうちにと思って・・・。
私もそちらに向いますから、待っててくれたら許します。
ウソです。
待ってて下さい。
一人で帰るのは寂しいですから。
分かりました。

5分後、先生と肩を並べて電車に乗った。
◯◯先生は終始ニコヤカで、ずっと楽しげに喋っていた。

電車を降り、改札を出る。
私の家に行くには左で、先生の家は右。
だが不思議と別れる事が出来ず、コンコースで長々と話す。
やがて終電がなくなり、駅員から早く出るように言われた。

「では・・・この辺で・・・」

タクシーはあるし、そこで別れても問題なかろうと思ったのだが・・・。


「お父さん・・・」

先生が小声で、そう私に呟いた。

「もう少し・・・お話しできませんか?」

深夜営業のファミレスに、二人向かい合って座った。
頼んだのはコーヒーだけ。
30分ほどでコーヒーはなくなり、あとは水だけで、2時間以上も話す。
時間はもうすぐ3時。

「そろそろ帰さなきゃ」と、真剣に思いだした。
が、先生の方は、ナカナカ話を止めようとはしない。
でもそのウチ、先生がアクビをするのを見て、「そろそろ帰りましょうか?」と切り出した。

「そうですね・・・もうこんな時間ですね・・・」

腕時計を見ながら先生が言う。
会計を済まし、タクシーのいる駅に向って歩き始めると・・・。

突然先生が腕を組んできた。
驚いて先生の顔を見るが、先生は目を伏せたままで・・・。
ゆっくり歩き、時間をかけてタクシー乗り場に着いた時、

「あの・・・あたし、嬉しかったんです・・・」

「えっ?なにがですか?」

「◯◯ちゃんが、お父さんが好きって言ってるって・・・」

「・・・」

「あたしが先生になってはじめて、『先生』と呼んでくれたのが◯◯ちゃんで・・・」

「・・・」

「◯◯ちゃん、保育園でいっつも、お父さんの話を楽しそうにしてくれて・・・」

「・・・」

「いい人なんだろうなって・・・気になってて・・・」

「・・・」

「最近、よく喋る事が出来るし・・・それに今日だって・・・」

「・・・」

「嬉しかったです・・・ありがとうございました・・・」

夜もふけ、未明と呼ぶにふさわしい時間。
人通りはまばらだが、それでも数名が、私達の横を通り過ぎた。
私達は抱き合い、長いキスを交わした。

「このまま、時間よ止まれ」と念じながら・・・。

「妻子ある人を好きになっちゃって・・・あたしってバカですよね・・・」

「・・・」

「先生って呼ばれる立場なのに・・・」

「・・・」

「でも、誰かも言ってましたけど、好きになった人が、たまたま妻子ある人だったんですよ。ただそれだけなんです」

「・・・」

「すみません、遅くまで・・・ご迷惑おかけしました」

涙を流しながら、そう言う彼女。
私はもう一度抱き締め、長いキスをした。

涙を流す彼女の肩を抱き、私達は同じタクシーの車内にいた。
まるで子供のように、泣きじゃくる彼女が愛しかった。

「失う事が多く、得る事があってはいけない恋」

失う覚悟の出来ぬまま、足を踏み入れてしまった二人。
誰も、今持ってる幸せを失いたくはない。
失いたくはないにも関わらず、ほんの一瞬の気の迷いが、そこに足を踏み入れさせてしまう。

翌年・・・。
◯◯先生は、職を失った。
私は息子と妻を失い、親からも勘当され、仕事も失ってしまった。

大阪へと夜行高速バス。
なんとか見つけた就職先は、これまで勤めた職場とは、給料がまるで違う。
住むのは1Kの、フロなし、トイレ共同の安アパート。
慰謝料や養育費を考えたら、それ位にしか住めない。

隣には◯◯先生こと、彩音が寝ている。
もしもこのまま、二人添い遂げる事が出来れば、それはそれで良かったのかもしれない。
でも・・・。
離婚届にハンを押す私に、妻が言った言葉が耳を離れぬ。

「略奪によって得た物は、略奪によって失うのよ」


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