小学校時代、同級生に「カズマ」という男子がいた。
軽度の知恵遅れだが、授業についていけないほどじゃない。
多動気味で、たまに大声を上げたり意味不明の行動をするが、授業が成立しないとか、クラス運営に支障が出るとかってわけでもない。
普通学級にいて問題ないレベルの子だったと思う。
ただ、女子からはかなり露骨に嫌われてた。
近づくな、こっち見んなって感じ。
太ってるし、あまり清潔じゃないし、目の焦点も少し変だったせいだろう。
そばに来られると、ちょっと怖かったのは事実だが、女子って冷酷だよな。
男子の間でも特に好かれてるわけじゃないが、そこまで酷くなかった。
3年生か4年生くらいの時、カズマがイジメの標的になって、いじめっ子たち数人が教師に相当キツく絞られたことがあった。
それ以来、カズマを仲間はずれにするのはマズいという感覚だったんだな。
「事件」が起きたのは6年生に上がった春。
たまたま保健室に行った某男子から、衝撃的な目撃情報が寄せられた。
「カズマが花房先生のオッパイを吸ってた!」
花房先生は養護教諭ってのか、保健室に常駐してる先生で、当時30手前くらい。
今にして思えばそれほど美人でもなかったが、優しくて感じの良い女性だ。
とりわけ、GかHか知らないが、白衣を突き上げる爆乳で男子の人気が高かった。
早く「目覚めた」子には、密かにズリネタにする奴も多かったはずだ。
その花房先生が、男子どもが憧れてやまない豊かなオッパイを曝け出し、あのカズマに乳首を含ませて「授乳」してただと?
しかもカズマはその時、ズボンを下ろして下半身をむき出しの格好。
花房先生の手は奴の股間に添えられてた・・・というから穏やかじゃない。
どういう事情があったかは知らない。
時々不安定になるカズマが、そうすれば落ち着いたからだ・・・とは思う。
「股間に手を添えること」の意味を理解してない奴も多かっただろう。
だが、そんな細かいことはどうでもよくなるくらいの激震だった。
女子の反応は、おおむね「気持ち悪い~~」という感じ。
花房先生のことを「好きだったのに、見損なった」という声も出たが、カズマに対しては、もともと嫌って避けてたわけで、それまでと大差ない。
問題は男子だ。
もっとどす黒い感情が思春期の胸中に渦巻いていた。
分かりやすく言うと「なんでカズマばっかり・・・」という男の嫉妬だな。
カズマと違って、俺たちは奇行に走らず「いい子」でやってきた。
ウザくて女子に嫌われてるカズマを仲間はずれにもしなかった。
なのに、そんな俺たちじゃなく、なんでカズマがそんなオイシイ目に・・・。
小学生というのは、自分以外の子に対する「えこひいき」に敏感だが、それが最悪の形で出たわけで、リアクションも最悪の形になった。
翌日から壮絶なイジメが始まった。
前に一度イジメて怒られてたのに、というかその経験があったからこそ、今回はさらに陰湿かつ巧妙。
具体的なやり方は思い出したくもないから端折るけど、体に傷が残るような暴力以外、ありとあらゆる手段で追い詰めていった。
カズマとしては面食らったと思う。
女子に嫌われるのは前からだが、それまで「味方」と考えてた男子連中が、いきなり自分に牙を剥いたんだから。
以前ならクラス内でイジメや嫌がらせが起きたら、イジメられる側に立って「やめなよ!」とか言う正義感気取りがいたんだが、今回はそれも全くなし。
孤立無援のカズマは日に日に元気がなくなり、1ヶ月で学校に来なくなった。
当然、緊急の学級会が何度も開かれた。
だが、担任はイジメがいかに卑劣な行為かを説くばかり。
前回と違ってクラスの一斉行動だから、特定の首謀者グループを絞めてやめさせるわけにもいかない。
担任もイジメの原因は分かってたはずだが、花房先生がなんでカズマだけにあんなことをしたのか、というか、そもそも2人が何をしてたのか、まともな説明はなかった。
まあ、小学生には刺激的過ぎて、具体的に説明できるわけないけどな。
そんなわけで子供らの敵意は、「最悪のえこひいき」を黙認し、お題目のように「イジメは駄目」と繰り返すだけの担任にも向いた。
不登校の子は通常、クラスの子が交代で毎朝家まで迎えに行くし、病欠とかで学校に来られない場合も、当番が家にノートを届けるんだが、男子も女子も団結して断固拒否。
もともと女子は拒否してたが。
担任は「それは恥ずかしい態度だ」「卑怯だ」と憤ったが、児童の側は「恥ずかしいのはカズマ」「卑怯?上等だよ」という態度。
教育というシステムそのものというと大袈裟だけど、学校とか教師への不信が渦巻く子供らは、聞く耳を持たなかった。
この異常事態が保護者に伝わらないわけもなく、臨時の保護者会も開かれた。
保護者会はさながら「知恵遅れの男子児童を拐かした変態養護教諭」糾弾大会・・・となったかどうかは知らない。
うちの親も何も説明してくれなかったし。
そもそもカズマの親や花房先生が、保護者会に出たのかどうかも知らない。
子供らが把握してる事実は、カズマが結局、卒業まで学校に来なかったこと。
それから花房先生も問題発覚から程なくして学校を休むようになり、2学期から「異動」で別の学校に行ってしまったこと。
もちろん異動の理由について、担任や校長から説明はなかった。
花房先生は既婚だったから、家庭でも色々あったんじゃないかと思うが、そんなこと知る術もないし、当時はそこまで考えも及ばなかったな。
保護者会の様子とか、花房先生の家庭事情とか、適当にでっち上げて書いた方が、スレ的には喜ばれるんだろうけどさ☆☆☆☆
中途半端と言われそうだが、児童の側もそれ以上「真相究明」しなかった。
もともと「自分はエッチなことしてもらえなかった」という嫉妬が発端。
「ボクたちは悪くない」と胸も張れず、とにかく早く記憶から消したかった。
結局、卒業まで担任とは険悪な関係が続いたし、カズマのいないクラスも、平和だけど何となく友達同士ぎくしゃくする。
どこか後ろ暗い所を抱え、あまり幸せじゃない残りの小学校生活を送った。
だから今も「弱者特権」を叩く書き込みを見ると、胸がズキッとする。
連中も不公平とか何とか言うが、あれも要するに嫉妬が原動力。
だからあんなに「弱者」への敵意むき出しで、執拗に叩くんだろうな。
ああいうのって「悪い奴」を探して叩くと一瞬、溜飲を下げた気になるけど、結局は何の解決にもならないし、叩いた奴を含め誰も幸せにはならないと思う。